今月の本 0609号 外資系企業崩壊す?国際弁護士の事件簿 松尾 翼(著)
今月御紹介するのは、国際弁護士を主人公とした小説です。 読みやすく書かれています。
弁護士が題材のドラマや小説はよくあるのですが、 国際弁護士を主人公とする本やドラマはあまりありません。 この本を読むとどんな生活をしてどんな仕事をしているか を知ることもできます。
また、題材が労務関係の裁判ですので、日本の労働運動の 問題点なども見えてきます。以前も書きましたが、 共産主義の最大の問題点は、独裁を容認したことにあります。 独裁によって、社会の変革を推進しようとしたのですが、 結果的に独裁主義者に乗っ取る手段を与えてしまい、 組織として当初の目標と相当異なる行動をとるようになりました。 (本来は、一人一人の幸福のために考案されたのですが。) そして、そういう組織が労働者側の援助をするようになったのです。 そのため、労働者側の組織はとてつもないトップダウン式の ピラミッド構造となってしまいました。
労働者と雇用者の間がこじれないように 冷静に話し合うのが労働争議や裁判なのです。 ですからあくまでも問題をかかえている構成員自身が主人公で、 そのひとたちの要望に応じて解決がはかられるべきものなのです。 上部の組織があったとしてもあくまでもそのひとの要求を少しでも多く 実現させるための助言機構であるべきです。 しかしながら、いつのまにかはるか上の組織の 面子がかかわってきて、少々妥協してもという 柔軟な行動がとれなくなります。 そして、経営側も企業と関係ない人達が話合いに でてくるので、乗っ取られるのではと心配して過剰に反応します。 ですから、戦後しばらく労働争議はおちついて 話し合うどころか、火に油を注ぐ激しいもの になってしまいました。 その後、企業よりの労組ができてきて、 労組出身の社長さんがめずらしくなくなりました。 本来、企業が儲かれば従業員も儲かるwin-winの 状況にあるのですから、経営陣と雇用者が協調するのが自然の姿なのです。 しかし今度は企業によりすぎであまり代弁してくれなかったりします。 結局問題があるときは、そのようなトップダウン構造のピラミッド 組織にたよることになります。そして、この本のように 一度争議になると結局大変な騒ぎになってしまい、 本来もっとも困っている人達がさらに困る結果になるようです。
経営側としては、裁判沙汰が少くなってよい ということかもしれませんが、一人一人の 労働者に適した環境を整備することによって 企業の活力をより増すということができなく なっています。最近世界銀行の幹部だった方の コラムにも書かれていましたが、働く人一人一人が 幸せであってこそ、組織は最大の力を発揮できるのです。 そういう機関が日本にないため多様な問題が起きているように 思われます。
たとえば、定年と年金の開始年齢に開きがあり、とても安心して 老後を過ごせる状況にありません。 しかし企業が経営に支障がでるとして反対していて、 なかなか差が縮まりません。しかし、会社を やめたあと、年金がでなければその分貯金で 暮らさねばなりません、結局前もって年金分を 給与として支払っているのと同じです。 その年金分を定年と年金開始年齢をくっつけて、 負担するのは当然であり、払えないのであれば その分給与水準を下げればよいわけです。 経営者側が調整できるのはその年齢をあげるか 下げるかだけであって、それらの年齢に間隙を つくることはあってはならないことです。 しかしそのような主張をする労働側の組織が ほとんどないので、もっと経営側が配慮しなければ ならない問題であるように思われます。 このままでは、財政が厳しいからといって 年金支給年齢が上がり,経営が厳しいからといって 定年が下がり、ますます差がひろがってしまう ことでしょう。その結果企業への忠誠心も揺らぐのでは ないでしょうか。
もっと、一人一人が自分の頭で全体にとっての 最適解を考えて行動するようにならないと 日本の社会全体が住み良くなることがないのではないでしょうか。
では、また来月に。
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