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今月の本　0507号コミック昭和史水木しげる作

今月ご紹介する本は、あの水木しげるさんの昭和史です。水木さんといえば、最近も関連映画が公開されているように妖怪ものがよくしられていますが、日経の私の履歴書を読まれた方はわかると思いますが、大変な戦争体験をされています。その体験を混ぜながら昭和の世相を描いた漫画が、今回の本です。

比較的裕福な家で育ちながら、昭和恐慌などで貧乏になりやがて戦争に巻き込まれていき、大変な目にあいます。そして、なんとか生き抜いて平成にたどりつくまでが描かれています。

ちびまるこちゃんのさくらさんもそうですが、漫画家の方の記憶力はすばらしいもので、大正末期から昭和初期の子供の生活がよくわかり、その時代というものを肌で感じることができます。

そして、世相に無関心な家庭がやがて戦争に巻き込まれていく過程も客観的に描かれていると同時に、どのような過程でそうなったかの記述もされていますから、若い人のあの時代の導入資料としてうってつけです。

最近、日本の若い人は歴史を知らないと他国から非難されますが、このような読みやすい漫画を中学校の夏休み中の課題にして一読させれば、その時代に生きていた人の感覚を簡単に受け継ぐことができますから、他国の人との議論もより実があるものになるのではないでしょうか。さらに、お互いの国のこのような読みものを互いに読みあえば、より生産的な対話ができるようになることでしょう。

この本のよいところは、比較的軽いテンポで書かれているところにあります。水木さんの能力を持ってすれば、いくらでも恐ろしい話にすることもできたと思います（なにしろ、旧シリーズの鬼太郎のアニメや連載漫画はとても怖くて私には観たり読んだりできませんでしたから。）が、生死の境の話でもさらっとかかれています。

そのため、比較的テンポよく読み進めることができ、普通の日常生活の中で違和感なく読むことができます。こういう体験ものの中にはそのときの感情と雰囲気を伝えようとするばかりに、前もって心構えをしないと読めないようなものもあります。そういうものも当然必要なのですが、そういうものばかりだと、読んだり観たりするのにおっくうになりがちです。そうなるとその時代の情報を得るのを避けるようになりがちです。若い世代の人が近代史をしらないのもそんなところにあるのではないでしょうか。まずは基礎情報を知ることこそが大切なのですから、この本のようなさらっとした描写のものをもっと増やした方がいいのではないでしょうか。（そういう意味で、参考にして頂きたいのがムーア監督の手法です。内容には賛否両論あるでしょうが、銃や９１１の問題をポップコーンを片手に娯楽映画ののりで観ることができます。観終わったあとの感じも悪くないので映画からの帰りにそのような問題について気軽に話し合うことができます。なかなか重いドキュメンタリーをみたあとはそうならないものです。）

ちなみに、悲惨な体験をした人の体験記ほどこの様な傾向があるように思われます。生き抜くための本能が働いて自動的にフィルターが入るのでしょう。実際、そのようなフィルターがないと、最近よく聞くPTSDに簡単になってしまいます。そして、製作者の方に気をつけていただきたいのですが、出版物や番組でも演出によっては、見た人がそうなる可能性があるということです。ですから、本やDVDなどにカレーと同じように、星印でどれほど怖いか醜いかを表示したらどうでしょうか。人間の感覚は幅がありしかも変化しますから、受け手にもっともふさわしいものは時間によって変わるものです。実際私も昔は辛いものはまったくだめでしたが、今ではふつうより少し辛いものまでおいしくたべれるようになりました。そういう意味でわたしは子供に大人が泣いたり噴出すようなものは見せたり読ませたりしないほうがいいと思っています。（そういう目で見て子供用の名作といわれるものには、刺激が強すぎるものが多いいように思われます。その点さすがにディズニーのものにはそういうものはないようです。）そのような表示を手がかりに刺激が少ないものから導入して少しずつ刺激があるものに進むような読書やDVD鑑賞習慣を子供のころに身に付けたらより安心して著作物を楽しむことができます。（そういう意味では、この本も刺激が少ないとはいえ、中学生ごろに読むほうがいいでしょう。）

では、また来月に。

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