今月の本    0503号 福井謙一博士の死 川端眞一(著)


今回の本は、ある記者の自伝です。著者の方は、京都の新聞社に入られて、京都大学を担 当し、ノーベル賞騒ぎなどを経験して、福井氏やその周辺と親しくなっていき、死亡情報 を最初に記事にする機会に恵まれます。そこで人間性と報道機関の倫理の差を認識しま す。

ただ、この本のおもしろさは、記者の人々がどのような事件やニュースに遭遇してそれら を記事にするためにどのような努力をしているかが、描かれているところにあります。で すからこの本を読むと当時の京都の新聞社と大学の雰囲気を味わうことができます。

それにしても、大学にも記者クラブなんてものがあったということははじめて知りました 。記者クラブといえば、たまにジャーナリズムが批判されるときにでてきますが、一般に どのような様子なのかはわかりません。京都迷宮案内シリーズで警察の記者クラブの様子が詳 しく描かれているくらいでしょうか。(そういえば、これも京都ですね、京都は記者クラ ブ制度がいろいろ残っているところなのでしょうか?)この本に描かれているような記者 クラブと記者の存在が京大でノーベル賞を量産できた秘密ではないかと私には思えました 。

ただ、私は現在のような閉じたクラブというのは問題であるとおもいます。どうしても身 内的な感覚になって客観的な立場に立つことは難しいと思うからです。ただ、そうはいっ てもどんな人でも自由に入れて質問できると時間と場所の限界を越しますから、そのクラ ブが対象とする読者数に応じて発言権があるようなクラブにしたらどうでしょうか。そう なれば、最近話題になったホワイトハウスのように、ブログの記者でも読者数が十分多け れば参加できるようになります。逆に専門的な分野の記者クラブであれば、部数は少なく ても専門誌が主導して運営できると思います。そして、席や時間があいていれば、自由に 参入が可能な運営とすれば、自由に新しいメディアも参入できて、報道も活性化するので はないでしょうか。最近、新聞にしろ、TVにしろ主要記事の比率が高すぎるように思い ます。そのような編成は最初はニュースステーションが始めたように思いますが、今では あらゆるニュースが大ニュースのみになっているように見えます。キャンペーン記事も重 要ですがそれが1/3を越えたら他のことがなにもわからなくなります。ハインリッヒの 法則が示す通り大きな事故を防ぐためには小さな事故の段階で対策をうつ必要があります から、小さなニュースといっても重要なのです。以前ドアの事故がありましたが、事故後 に統計をとってみたらそれなりの数の事故が発生していたようです。もし、それらの事故 が地方版にでもすべて報道されていたら、より早い対策が行われていたのではないでしょ うか。同様に交通事故も、事故をへらしたかったら、すべての事故の記事を載せるべきだ と思います。プライバシーの問題から、加害者と被害者の氏名は伏せてかまわないとおも いますが、どこでどんな原因で事故がおきたかを、擦り傷程度の事故からすべてのっけた ら、どの場所にはどんな危険があるのかがわかりますから、通る車や人もさらに気をつけ るようになることでしょう。(事故発生現場の立て看板だけではなにが原因でおきたかわ からないので対処のしようがありません。)マスメディアだけになっているのでそのよう な地元の情報が極端に少なくなっています。そのため、国政選挙であっても小選挙区の動 向はほとんど報道されませんから、選挙が盛り上りません。ある意味民主主義の危機を助 長しているように思われます。交通情報のようなものも、最近は大まかにしか知らされな いのですが、FM世田谷のように局所的に詳しい放送を行ってもらえれば、ナビは必要な く非常に便利です。身近な情報を担うメディアをもっと育てるべきではないでしょうか。 また、同時に世界レベルの話題も減っています。いつ国連がはじまってなにが行われてい るかはほとんどわかりません。まして他の国でどのような予算や政策が審議されてどのよ うな問題に悩んでいるかもほとんどわかりません。(もっとも国会でも予算委員会以外で どのようなことが行われているかはほとんど一般の報道からは知ることはできないのです が。年金法案の可決後の修正項目数が多いいことが話題になりましたが、せめて法案全文を載せていれば審議中にだれかがきがついたのではないでしょうか?)

民主主義を実行する上では正しい情報を得て判断することが大前提です。ですから、この ように現在の報道では足りない部分が多くあり、新しいメディアというものが必要とされ ていると思っています。そう考えると、この本の著者のような、記者の経験がある人が趣 味として理想とする報道してもらえたら、上記の穴はだいぶうまるのではないかと思いま す。この本の作者は、若い時から文章を書くことを鍛えられていただけはあり、実に読み やすい文章でこの本は書かれています。記者をやっていて若干記者の現実と理想のギャッ プに悩むこともあったようですが、現在、ブログをはじめインターネット上での情報発信 がしやすい状況になっています。ですから、この本の著者のような方が、理想的な報道を 趣味としてやられると、だいぶ日本の報道の質も上がるのではないでしょうか。

その際には、現在のマスメディアは主要ニュースの配信元として機能すれば、容易にバラ ンスのとれた報道が可能であると思われます。現在のメディアの多くは、情報の受け手を 広告主に導くことによって利益を得ていますので、インターネット事業と非常に親和性が たかいのです。広告をいれたままラジオやテレビの番組をそのまま流しても十分利益にな ります。(もっとも、携帯電話のように町内に一つづつアンテナをたてて、アンテナご とに放送内容をかえれば、コミュニティーFM以上のこまわりのきく媒体になって、ひょっ とするとインターネット以上の利便性が得られるとおもうのですが、デジタル放送用のア ンテナも一つの新東京タワーから放送するらしいです。マスメディアからの脱皮ができるよい機 会だったとおもうのですが。)

では、また来月に。


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