メールマガジン　今月の本　0203号

今月の本 0203号

法廷士グラウベン　　彩穂ひかる (著)

法廷はある意味で劇場のようなもので、上手に話を構成するとおもしろいものをつくることができます。ですから小説や映画の舞台によく選ばれています。

映画で有名なのは「１２人の怒れる人たち」でしょうか。映画の最初から最後までほとんど陪審員室の中で話しが進んでいきます。最初は簡単な事件であると思われたのが議論を進めるうちに新たな真実がつぎつぎと浮かびあがってきますので、見ていておもわず引き込まれます。一度見ると引き込まれるので、おそらくTVでCMを入れずに放映すれば視聴率は尻上がりにあがるのではないでしょうか。シナリオが優秀であれば、舞台がたった一室であってもいかに面白いものができるかの見本です。

今回紹介する本は、その法廷ものの話をファンタジーの世界で展開しています。その結果、より面白みが増しています。

刑事コロンボシリーズでもそうですが、やはりこういう話は、下町の一般の家庭における事件よりも、大富豪や裕福で社会的地位のある人の周辺の話しで、親族、執事や使用人といった、多様な身分の人が絡んでくる事件の方がより面白くなります。

そこで、著者は中世のドイツに裁判専門の都市を小説の舞台として設定していて、これがいい効果を上げています。その舞台の上で優秀な弁護士（法廷士）が自由に活躍しており、さらに、身分を超えた恋に、領主や騎士、市長や検察官などが絡んでとても面白い話となっています。真実が次から次へと変化する様は、１２人の怒った人の映画を彷佛とさせてみごとです。

こういう話は当然小説家や脚本家が知恵を絞って作り上げたものなのですが、同様な事態がおきないともかぎりませんから、こういう本を読むと真実を見極めることの難しさを認識することができます。傍でこういう事件を眺めているのはある意味面白いのですが、事の真偽を判断する当事者となったら、相当悩むことでしょう。今後、日本でも陪審制が取り入れられるようですから、突然そんな場面に遭遇することもあるかもしれません。そんなときにどうするか、こういう本を読みながら考えておくのもよいのではないでしょうか。

では、また来月に。

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翼徳　
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